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長崎・軍艦島 鉄筋探査健全度調査に参加
過酷な状況の中、安定した信頼性
鉄筋調査にメーカーとして唯一召集
それは1通のメールから始まった。
2015年4月某日。差出人は芝浦工業大学 工学部 建築学科 准教授 濱崎 仁氏。
世界文化遺産への登録が期待されていた長崎県にある小さな無人島・端島、通称:軍艦島における日本建築学会の調査団に、メーカーとしてぜひ参加、協力して欲しいとの依頼であった。
メールを受け取ったのは、技術本部 東日本プロジェクト開発課 キープロジェクトグループ マネージャーの久冨だった。探査機製品のスペシャリストである。
濱崎氏はヒルティの探査機の性能や信頼性について、非常に高く評価をしてくれている研究者の一人だ。
依頼内容の概要は、今年9月に軍艦島のコンクリート系建造物の保存の是非、また保存方法を検討するための現地調査を実施する。今回の調査は、①構造調査 ②材料調査 ③鉄筋調査 の3つの調査グループがあり、③鉄筋調査において配筋や鉄筋探査に関する参加要請であった。
久冨は考えた。
「軍艦島は日本最古の7階建て鉄筋コンクリート造の高層アパートなど、歴史的にも価値がある建造物が存在する島と聞く。その保全活動に参加することは、ヒルティが日ごろから取り組んでいる社会貢献活動の一環でもあり大きな意義がある。
また総勢50名以上といわれる調査団は、学生、建築系研究者、調査会社も参加予定だという。彼らと共に参加し、共に汗を流すことが重要ではないか? ヒルティの若手技術者にとってもこの経験が必ず役に立つはずだ。」
そう判断し、参加を快諾した。
結果的にメーカーとして参加できたのは、唯一ヒルティだけであった。
歴史的に価値のある建築物で溢れる島
端島(軍艦島)は、2015年7月5日、国際記念物遺跡会議(イコモス)により、【明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域】の構成資産のひとつとして世界文化遺産に正式に登録された。
長崎港から南西に約19kmの海上に浮かぶ、幅約160m、外周約1,200m、面積約6,3ヘクタールという小島だが、日本初のRC構造高層アパートをはじめとした建物が密集している。時代の変遷とともにRC構造の建築技法が確立されていった建造物が残る建築
学的な観点からも非常に大きな価値をもっている貴重な場所といえる。
中には築100年にも達する建築物が現存しているが、1974年1月の閉山後、補修工事が施されないまま波風にさらされてきたために、現在は廃墟と化している。
イコモスからは「緊急の保全措置計画と長期的な保全戦略の策定」を求められたが、島を管理する長崎市では、勧告前から保全計画の策定を始めており、島内の建築物の劣化状況を入念に調査した上で、今年度中に計画をまとめ上げる予定になっている。
今回の参加にあたってプロジェクト・リーダーを務める久冨は、3日間の調査を合計4名で参加する体制を組んだ。エンジニアの宮崎、有田、さらに営業の宮本を合流させた。まさに探査機のプロ中のプロで構成された精鋭チームが出来上がったと自信を深めた。
この活動で得た経験やデータは、ヒルティの製品やサービスを利用していただく顧客に対して、より実践的な生きた情報提供が可能となり顧客満足度の向上につながると確信していた。
島内は想像以上の過酷さ、常に建物倒壊の危険と背中合せの状況
建築物のほとんどが築50年以上、中には100年に達するものもあり想像以上に劣化が進んでいる。既に倒壊してしまい原型を留めていない建物もある。1916年(大正5年)に建てられた30号アパートは、日本最古のRC構造の高層アパートだが、いつ倒壊してもおかしくない状態ということで今回の鉄筋調査の対象からは外された。このような危険な状況の中、調査は開始された。
今回の鉄筋調査は住居棟と呼ばれるエリアが対象で、長崎市が事前に決めた調査物件は10棟。それらを鉄筋調査に参加する4社で分担して調査に当たった。
ヒルティが担当した建物は、島のほぼ中央、一番高い場所に建てられている3号棟(1959年建設)と、19号棟(1922年建設)。この建物は大正時代に建てられたこともあり、劣化がかなり激しい。迂闊に手すりに体重を預けようものなら、手すりもろとも中庭1Fまで真っ逆様に転落してしまうといった状況であったため、髪の毛の先まで緊張感で覆われた。
調査をする上で苦労した点について久冨に聞いた。
「非常に危険な状況の中での調査活動です。島内は電気が通っていないため建物内は暗く、足元は瓦礫だらけで非常に作業しづらい環境です。怪我のないよう安全面の確保は一番気を使いました。
また現場が文化遺産という事で忘れ物はもちろん、調査対象のコンクリートにチョークで字を書くようなことも許されません。また決められた日程、限られた時間の中で調査を完了しなくてはならないため、効率よく調査を遂行することが求められます。そんなタフな状況にあっても、メンバーは確実に仕事をこなしていきました。」
ヒルティのアドバンテージ、高い生産性を保てる理由
調査に持ち込んだ探査機は、フェロスキャンシステム PS 250とX-スキャンシステム PS 1000の2種。
作業手順は調査対象の柱や壁に、①方眼紙を貼る、②PS 250とPS 1000でそれぞれ、縦横に方眼に沿って転がすようにスキャンする、③計測結果を記録する、④計測位置のXYの始点を記録する、⑤記録用に写真を撮る、一連の作業手順はこのような流れで進められる。
久冨は探査機の性能について触れた。「PS 250、PS 1000どちらも軽量で扱いやすく、今回のような悪条件下でも探査データ取得がスピーディで安定しています。スキャンも簡単で探査結果が素早く表示され、3Dでビジュアル化されている。視覚的でわかりやすい事が大きな特徴です。今回の結果は長崎市の職員の方々も確認することになるので、探査データの解り易さという点でも群を抜いていたのではないかと思います。」その笑顔は自信に溢れていた。
延べ3日間にわたる鉄筋探査健全度調査では、約50箇所の対象物について探査を行った。明治日本の産業革命遺産の構成資産である建造物に実際に触れ、貴重な文化遺産をひとつでも多く、少しでも長く、後世に残すことで建設業界の未来に貢献できる。参加メンバー全員の想いだ。
今後は耐震補強に対する支援で軍艦島の保全活動に貢献
今回の調査結果を受けて、長崎市は具体的な保全に向けた計画案の策定に移行する。補強や補修で残せるものについては、その方法など具体的な検討に進む。
そして今後、耐震補強に関するアンカーの性能試験も予定されている。この分野での技術的なアドバイスも含めヒルティが支援できる事は増えてくるのではないだろうか。
「今回の貴重な体験、経験を、お客様への提案活動や技術支援などにも反映できるよう活かしていきたいですね。その結果、私たちが現在取り組んでいる顧客エンゲージメントの向上にも繋げていきます。」今後の活動への豊富を語って、今回の調査報告を締め括ってくれた。
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